「イニシエーション・ラブ」

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

2004年最大級の問題作、2度読み必須…という触れ込みで、そしてこんな小説なのに「ミステリー・リーグ」から刊行ということで、明らかに大きく構えて読み始めた本作。
とりあえず、ネタバレなしには感想なんて書けないので、一気に後は反転。
(ここから)この作品の面白さは、全体に張り巡らせた周到な伏線がすべてなのでしょう。そして、徹頭徹尾ラブストーリーとして展開されているところ。Side-Bに入った途端感じる違和感、「たっくんってこんな人じゃなくない?」というのと、先入観としてある「今年最大の問題作」という触れ込みで、まず疑うのは「Side-AとSide-Bのたっくんは別人ではないか?」ということでしょう。だって間違いなく叙述トリックが仕掛けられているのは、帯からして明白なんだもん。こういう仕掛けは正直言ってかなり好みです。
でも問題は物語なんですよ…。大技だし、読み返しが必要な作品というのは非常にイイと思うのですが、正直もう一度読みたいとあまり思えないのです…。ストーリー自体が、正直あまり面白くないのです。(失礼は承知。)だって…痛々しい恋愛風景が描かれているだけだから。しかも私の青春時代は80年代ではないので、正直時代背景もイマイチよくわかんないし〜。
この作品を読んで「女性は怖い」なんていう感想を抱く人がいるようですが、Side-Bの主人公の男性といったい何が違うと言うのでしょうか。別にぜんぜん怖くないと思うけどなあ。怖くないと言うか、男も女も結局同じことしてんじゃん、というだけで。この作品が男性側の視点から描かれていて、女性側の心情の部分が見えないから「女は怖い」と思う人がいるのかもしれませんが…。だってはっきり言うなら、遠恋中とはいえ堕胎させた挙句に浮気するオトコなんて正直最低だと思います。(まあ確かに、その状態で浮気できる女性もすごいバイタリティーですが。でもこちらの心境的にはまあわからなくもないのです。堕胎して身もココロも傷ついてる割にはSide-Aでは確かに元気そうに見えるけれど、だからこそ遠くに住んでいて会いに来てくれない彼氏よりも身近にいる自分を好きでいてくれる男に頼ってしまうというのは、ある意味当然ではないでしょうか?)そもそも「夕樹」という名前から「たっくん」なんて呼称をつける辺り、明らかに怪しいと思うんですが。(最初は「昔好きだった人に似てるからその人の身代わりに?」なんて思っていたので、同時期に並行していたということを知った時には少し驚きましたが。)ただ、たとえば便秘で入院したから会えないと言っていた本当の理由や、指輪がなくなった本当の理由など、確かにぞくりとする部分はあります。でも本当のラストはSide-Aのラストなのだから、そういう意味ではハッピーエンドだといえるのではないでしょうか。こっちのたっくんに関しては、明らかにこのままだまされるのが幸せでしょう。ちゃんとだましてあげてるマユちゃんはある意味親切とさえ言えるのでは?
はっ。なんだかマユちゃん擁護(?)になってしまいましたが、断じて私は彼女に感情移入はできませんので、悪しからず。(ここまで)
どうでもいいけど、某ネット書店いくつかで、何で乾くるみ氏は「女性作家」ということになってるんでしょう…。まあ名前だけなのでしょうが。作品を読めば読むほど、間違いなく男性じゃん、と思ったりするわけです。「Jの神話」にしろ本作にしろ、女性はこんな描き方はしません。(たぶん。)