「四季 夏」

四季・夏 (講談社ノベルス)

四季・夏 (講談社ノベルス)

相変わらず、ファンサービス的要素の強い本作。真賀田四季の魅力が遺憾なく表現されているこのシリーズではありますが、今作は意外に普通(?)な一面が見れたのかも知れません。
まあ間違いなくミステリーではないわけですが、でも13歳のときに天才が起こした事件の経緯が記されているため、非常に興味深く読みました。
他作品とのリンクも至るところに散りばめられているので、読みながら思わずにやりとしてしまうところも多かったのですが、個人的に一番印象に残っているのはやはり最後の四季の言葉。
このシリーズが完結したとき、もう一度必ず「すべてがFになる」と「有限と微小のパン」を読み返そうと思っています。

「春」がミステリー的なサプライズを多少なりとも残した作品だったのに比べ、「夏」は完全にキャラ物的な話になってしまった。ファンにとってはミッシングリンクが埋まったり、ファンなら判る意外なオチがあったりと、ある意味サプライズはあるのだが、ミステリー的な意味でのサプライズは無いと言ってもいいだろう(気づかなかっただけかも知れないが…)。
逆に感じたことは、非常にデリケートに書かれているという印象である。森作品は以前から後々のことを考えた伏線や、過去の作品を見て初めて気付く設定など、シリーズを通した楽しみ方が出来るような緻密な計算がされていた。この作品はそれ以上の要素として、四季シリーズから森作品を読み始めた読者でも他のシリーズを読むことが出来るように、非常にデリケートな配慮がなされている。そりゃ、過去の作品のネタバレもバリバリされちゃってはいるのだが、本当に肝心なところでのネタバレがされない配慮がされているのが本当に素晴らしい。
だから春を読んだ時に受けた、ミッシングリンクを埋めるためのファンサービスなんていう位置付けじゃ決して無いと感じた。やっぱ森博嗣は凄いな。(姫)