「ラッシュライフ」

本当はハードカバーで読んだけど、文庫のカバーも好き♪

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

デビュー作「オーデュボンの祈り」が期待以上の面白さだったので、既に全幅の信頼を寄せて読み始めた本作。その信頼を裏切らない作品です。アベレージが非常に高い作家さんなんだと思います。
歩き出すバラバラ死体、神様を解体する信者、鉢合わせする泥棒、拳銃を手にした失業者、金がすべての富豪画商―。異なる視点で描かれる5つのストーリー。
…こういう構成がそもそも好みなのです。パズルのピースのようなそのひとつひとつを、たどたどしくながらも1枚の絵にしようと当てはめていく作業そのものが快感だったりするのです。
ようやく全体像がうっすらながらに見えてきたところで、最後は作者がすっと右手を出してきて、パチンパチンと小気味良い音を立てながら、収まるべき場所にピースを嵌め、見事に絵を完成させてくれるのがまた心憎い…。
このワザには圧巻です。うまい作家です。期待通りの作品でした。あ〜面白かった。

そして何より、ひとつひとつのエピソードが扱っているテーマはそれぞれ重みを持たせることがいくらでもできるような題材なのに、むしろ軽やかで爽快感さえも伴いそうなほどのこの作者特有の「味」が非常に心地いいのです。
事件が起きていてもイマイチ緊迫感に欠けるのは、この作者独自の世界観、独自のユーモラスな感性がモノを言っているのでしょう。
正直に言います。好きです、伊坂幸太郎