「魔王」

魔王

魔王

考えろ考えろマクガイバー

新刊が出るとハードカバーだろうと一瞬も迷うことなく間違いなく購入する作者の1人である伊坂氏。実はそういう作家さんって、そんなにいません。思いつくのは古処氏と伊坂氏くらい?
先週、有楽町の本屋に寄ったところ、これでもか! というほど何箇所にも平積みにされていたため若干その時点で食傷気味になりましたが、それでも当然即購入。
相方が読み終わるのを待ってから(いえ、単に私が別の本を読んでいただけですが…)、私もさっそく読みました。
伊坂作品もこっそり布教活動を進めている私ですが(私が布教するまでもなく売れっ子ですけども)、とりあえず、伊坂作品スタートに本作はオススメしません。やはり伊坂入門としてのイチオシは、「オーデュボンの祈り」です。
あ、話がちょっとズレちゃった。

「エソラvol.1」に掲載された「魔王」と、続いて「エソラvol.2」に掲載された「呼吸」の2作品が収められた本作。
「伊坂氏らしくない」ようで、「伊坂氏らしさ」がとても出ている、とても興味深い作品でした。一言で言うなら、私にとっては「おもしろい」作品でした。
主人公を含めたキャラクターは今回も伊坂氏らしさが溢れ、交わされる会話なども相変わらず独特で非常に魅力的。しかし「魔王」からは、いつもの氏の作品から発せられる「清々しさ」だけでなく、「アヒルと鴨のコインロッカー」で感じたような「せつなさ」ともまた異なる、なんというか「ダーク」な感じ。だけど、「グラスホッパー」ともまた違う印象。作品全体に独特の「緊張感」が漂い、胸騒ぎがするというか、落ち着かないというか。
やはり、現在そして今後の日本について、どうしても考えさせられるという部分も大きいのかもしれません。発刊のタイミングがあまりにドンピシャだということもありますが、確かに「問題作」なのかもしれません。
そういう意味では、かなりの重大なテーマを扱っているにもかかわらず、いつもの「伊坂ワールド」はしっかり展開されているところが、この作者のすごいところなのでしょう。
「魔王」に比べると、「呼吸」は主人公が詩織ちゃんということもあってか、かなり空気がやわらかい印象。いつもの伊坂テイストにより近いというのか…。こちらの方が「落ち着く」感じがあるのは、やはりいつもの伊坂テイストが少し恋しくなってしまったのかもしれません。
宮沢賢治の詩も非常に効果的。実家には詩集があるはずなので(父が宮沢賢治氏が大好きなので…)、機会があればひさびさに手にとってみようと思います。

もちろん、氏の他作品とのリンクは健在。しかし、「あの人」は伊坂作品ではものすごくキーとなるキャラクターな気がして仕方ありません。出てきた時点で、その後の大きな展開のひとつが、明確にわかってしまいますから…。