「死神の精度」

死神の精度

死神の精度

デビュー作を読んだときから、読了後の何ともいえない「幸せにさせてくれる」感じがたまらなくて、すっかり伊坂氏の作品の虜になっている私。今回も読み終えて、こんな気持ちにしてくれるのだから、まったく伊坂氏ときたらなんと心憎い作家なのでしょう。正直気付いているのです、氏が「狙っている」ことは。氏がこの上なく「あざとい」ことは。でも、それを認識した上でも、私は氏の作品がとてもとても好きなのです。本作も、両手を上げて他人に推薦できる作品でございました。
本作の主人公は、タイトル通り「死神」。しかも、ミュージックをこよなく愛しているという、何だか妙な「死神」。千葉という名を持つこの死神のキャラクター設定が例によって見事で、私はまたも伊坂氏を心憎く思ったり。(だって「死神が主人公」と聞いた時点で、まさかこんな爽やかな作品になるとは思わなかったんですもの。「グラスホッパー」系かと思いきや、思いっきり「チルドレン」系だなんて…。)
本作は、その千葉が「担当」した人間と過ごす「調査」のための7日間についてを、あるときは恋愛小説風に、あるときはロードノベル風に、あるときは本格推理風に描いた連作短編集…というもののようです。
もちろん氏の作品である以上、作品と作品が見事な伏線で繋がっており、読み終えたときになんともいえない充足感で包んでくれます。
なかでも個人的に気に入っているのは、「死神と藤田」。これを読み終えたときの感想を、なんと表現したらいいのか…。「チルドレンII」とまでは行きませんが、でも相当に好きな短編です。でも「チルドレン」同様、こちらも全編通して読んでの満足感の方が大きいです。
先述の通り、各作品で趣向が異なり、作家・伊坂幸太郎の幅の広さを見せつけられているようで思わずニヤニヤしてしまうことも多々ありました。また、今回登場した他作品とのリンクについても、かなりニヤニヤしてしまいました。
何だかまとまらない感想ですが、確実に言えることは、「おもしろかった!!」ということです。これ、直木賞とってもいいんじゃないですか? ってことで。ま、「チルドレン」でとれなかったので何とも言えませんが。これまでのノミネート作品全部思い出したら、絶対にこの人にあげていいと思うんだけどな、直木賞