「線」

書かなきゃと思いつつ、ちょっと出遅れてしまいました。相変わらず読むのに気合が必要なもので。空気作りというか?

線

古処氏初の短編集。…そうか、そういえばそうなのか。以前、「短篇ベストコレクション―現代の小説〈2009〉 (徳間文庫)」で「たてがみ」を読んで、相変わらず何て話を書くんだと思ったのですが、全体通してもなお。収められた作品の中でも、この「たてがみ」はよかったです。あと印象に残ったのは、「糊塗」と「豚の顔を見た日」あたり。
本作の中で描かれているのは、戦争の中にある「個人」。帯にも記された通り、名もなき戦士を描く物語。胸に迫るこの思いは、なんとも言葉にしづらいものです。
あくまでこれは小説であって、作者自身も戦争を体験していない。だからこそ、これはリアルではない、はずだ。でも、そこに彼らは「生きて」いる。軍人ではなく、ただ戦争世代と括られて、戦地へと赴くこととなった人々。描かれるのは、まさに等身大の人間だ。過酷なニューギニアにあって、だが彼らは人として生きている。生きることをあきらめざるを得ないような、そんな状況にあったとしても。ともすれば、絶望を知り、生きることを放棄していたとしても。その行き先に、生を見出せないとしても。
あくまでも、これは小説だけれど。目を背けたくなるようなリアルがそこには間違いなくある。だからこそ、ページをめくるときに緊張感が走り、私はそれを読書の快感だと思う。(まあ最近は読んでいて快感を味わえるような、そんな作品ではありませんが…。)
今回は短編集ということで、他の作品よりは少し入りやすいかもしれません。もっと多くの人に読んでもらいたい作品であり、もっと広く知られてほしい作家さんです。さーて、地道な普及活動をするかね。