「天使のナイフ」

天使のナイフ (講談社文庫)

天使のナイフ (講談社文庫)

夏休み課題図書その2(嘘)です。例によって、文庫化されて書店で大量に平積みされていたのを発見して、手にとって見ました。
帯で紹介されている内容から、重いテーマを扱っていることは明白だったのですが、なんとなくそういうのが読みたいタイミングでもあったのです。(石崎作品の反動?)

…で案の定、一気にががっと読んでしまいました。ああ、これは傑作。すごい作品だと思います。しかもこれがデビュー作なんですよね。いや、本当にすごい。
前述の通り、「少年法」という重いテーマが扱われており、実際にかなりの重さを伴う読書感ではあるのですが、ただ単純に陰鬱にさせるような作品ではありません。もちろん、読んでいてつらい部分もある作品なのですが、間違いなく優しさがある。そんな物語でした。
ミステリーとしても、秀逸。何というか、できすぎ感はあるものの、この幾重にも伏線が張り巡らされた構成は、見事。物語が終盤に進んでいくに連れ、明らかになっていく意外な事実たち。…ここまでは見抜けないです。
でもそれ以上に、物語に入り込ませる力もすごい。…正直、どんなに主人公である桧山に感情移入してしまったことか。デビュー作でこれだけしっかり読ませられるというのは、すごいんじゃないかなあ。

もともと社会派ミステリーはかなり好みなジャンルなのですが、そんな私の好みを差し引いても、よくできた作品だな、と感じました。
当初予想していたものとはまったく違った顔を見せてくれる小説で、個人的には大満足です。正直、もっとドロドロしていてもいいくらいなのですが、これくらい爽やかさがあった方が、読みやすいし少し軽い気持ちになれて、いいかな。
しかし、あらゆるシーンで穿った見方をしてしまうミステリー読みで心の汚い(?)自分がいやになりましたよ、まったく。