「夏と冬の奏鳴曲」

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

麻耶雄嵩の二作目。如月烏有が(恐らく)主役になるシリーズものという位置づけができるだろう。和音島で作られたある宗教的なコミュニティーの参加者が20年ぶりに和音島に集まるということで、雑誌編集のアルバイトである烏有は、編集長命令で取材に行かされてしまう。そこで烏有は連続殺人に巻き込まれてしまうのだが…。翼ある闇が館ものであるのに対して、こちらは孤島ものといえるだろう。

一読した感想としては、「なんじゃこりゃ?」であった。結局超常現象かよ? って思わせてしまうトリックや、唐突すぎる「ありえない現象」によって作品世界が暴力的にひっくり返されてしまう様子といい、これは何が言いたいのかさっぱり分からなかった。特にその少し前に「コズミック」と「ジョーカー」を連続して読了したところだったために、「もしかして、同じ系なの?」と思ってしまった次第。そんなわけで、その後しばらくは「黒い仏」と並ぶ地雷作品となっていたのだが、その後の作品を読み進めるうちに(それぞれが完成度が高かったためだが)、本当にあれは地雷作品だったのか、と疑問に思い、ネットの書評を参考に再読してみた。

いやあ、オレの読み方は本当に浅かった。文庫の裏に書かれていた「メルカトル鮎の一言が全てを解決する」の一文すら忘れていたもの。一読時には何のことやらさっぱり理解できなかったその一言も、再読してみるとよく分かった。そして受けたのは過去に例が無いほどの衝撃。あの一言を元にして改めて事件を頭から追ってみると、裏に隠されたとてつもなく壮大な設定が明らかになるわけで、それを知らずにこれを地雷と思っていた自分が正直恥ずかしかったです。なるほど、そこまで分かるとあの「ありえない現象」にも論理的な説明が行えるわけだし、一読したとき感じた編集長の言動の不可解さにもちゃんとした理由があったわけで。更にネットでタイトルに隠された意味を知ったときには、個人的な評価は地雷から傑作へと跳ね上がったわけです。

再読という習慣がそれまで全く無かったオレですが、この作品をきっかけに気になった作品は再読するようになりました。(姫)