「未明の悪夢」

未明の悪夢 (光文社文庫)

未明の悪夢 (光文社文庫)

鮎川哲也賞受賞作。読みたくなったきっかけは、氷川透さんかもしれません。同じ年に最終候補となった中に氷川さんの作品や「3000年の密室」があったとなると、それらを押さえて受賞した本作に興味が湧かないはずがない…というわけです。
1995年1月の神戸を舞台に描かれている作品ということで、覚悟はしているつもりだったのですが…思った以上にキました。読んでいて、眩暈を覚えるほどにリアルな表現。
戦争ものなどといった「遠い世界」(こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、それでも現在の私がそういうものと無関係に生きていることは紛れもない事実)の話ではなく、現実に私もその時期に生きていた、そして家族や友人たちが実際に体験した出来事が語られているだけに、目を閉じてしまいたくなるような表現が随所に現れてきます。しかし、そこから逃げることなんてできない。紛れもなく彼らが直面した現実なのだということが、何よりも痛切に胸に迫ってきます。
そして、勿論「本格」です。物語の進め方も見事です。1つ1つのトリックは、割と簡単に予想がつくものですが、この作品の主眼はそこにはないのでしょう。
「震災小説」という側面から、確かに読者を選んでしまうかもしれませんが、私は多くの人に読んでもらいたいと思います。
作者のエネルギーを、熱さを、感じることができる作品でした。
この主人公コンビ、以降シリーズ化されているということなので、今後読んでいきたいと思います。俄然やる気。