「接近」

接近

接近

常日頃より「一生ついていく」と宣言している作家さんなので、例によって尋常でない期待を胸に手に取った本作。…その期待にこの上ない形で応えてくれる古処さんに敬礼。
いえ、本当にすごいのです。シンプルなだけに胸に響くものが非常に大きいのです。これまでの作品も大好きですが…私にとっては本作が一番かもしれません。
最初に言うなら、これはミステリーではありません。勿論、本人が「何らかの形でミステリーと呼ばれるものを書き続けたい」(うろ覚え)と仰っている通り、本作もミステリーと言うことはできます。でもそんなカテゴライズは無用です。かといって太平洋戦争下の沖縄が舞台というだけで「戦争モノ」かというと、その言葉も何となく似つかわしくないのです。もはや古処誠二だけのジャンルを作ったと言っていいのではないかと思います。
まっすぐ、正しい、迷いのない、純粋――そんな言葉が痛いほどに似合う少年。まるで、その表紙に表されている「純白」という色がこの上なく似合います。しかし、彼が信じたものがどれだけ儚いものなのか…。彼が直面する「現実」がただ静かに描かれている作品です。
圧倒的な文章力によって、ひたすら静かに描かれている情景が大きく迫ってきて、この上なく胸を打つのです…。
常に緊張感を必要とする作風はいつもの通りです。ページを繰る手が止まらず、最後まで一気に読んでしまいました。胸を締め付けられるような苦しさや目をそらしたくなるほどリアルなその表現はただただ静かで、より一層心を抉られるような感覚さえあります。眩暈がするほどに。そして、最後に真実とともに明かされるこの物語の構成の見事さに驚かされました。間違いなく、素晴らしい作品だと思います。