「六の宮の姫君」

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

家に読む本がないなー…と思って本棚を漁っていたところ、積読していたこの本を発見。非常にひさしぶりにこのシリーズを読んでみました。なぜこんなに本作を読むのが遅くなったかというと、先に読んだ相方から「んー、これはなあ…」という微妙な評価を聞いていたからでした。たぶんちょうどこの本を買ったときに私自身読む本が他にもいろいろあって、手が伸びなかったんだろうな。

で、ひさびさに読んだ<円紫さんと私>シリーズ。読んでいる間に感じたのは、北村薫という作家の描写力、表現力の素晴らしさ。この文章は、誰にでも書けるものではないなー。ふとした表現に、ハッとさせられることがしばしば。例えば、<私>と正ちゃんがドライブをしているときのこんな表現。容易に私の脳裏にはその絵が浮かぶ。

影絵になったワンちゃんの姿はあくまで静かであった。ピンと立った両方の耳は頭に比べて当然肉が薄く、そこだけが、まぶし過ぎる夏の日差しをきっちりと三角にすかして見せていた。

氏の表現する数々の情景に、そして見事な<私>の心理描写に、時にハッとさせられ、時にうっとりさせられ、そして優しい心になれる、そういう瞬間が続くことが幸せで、だからこそ私はこのシリーズが好きなのだとしみじみ感じることができました。

といいつつ、文章自体がステキだから本作を特に苦もなく読めたのかというと、もちろんそれだけではありません。芥川龍之介が「六の宮の姫君」を書いた意図の謎を探るという本作の主題。恥ずかしい話、私は芥川作品に触れた記憶はほとんどなく(学生時代に読んだことがあるかなあ…?)、正直興味を持てるか不安を抱えつつ読み進めたのですが、そんな懸念は単なる杞憂に終わりました。非常におもしろかったです。むしろ、本作をきっかけに、芥川はもちろん菊池寛久米正雄らといった文学界の歴史に名を残す面々の作品に触れてみたいと思っています。