「山ん中の獅見朋成雄」

山ん中の獅見朋成雄 (講談社ノベルス)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社ノベルス)

ひさびさの舞城作品を。ノベルス化からもしばらく経っていますが、せっかくなので読んでみました。
しっかし、これはどういうジャンルの作品になるんでしょう。純文学? って、こういうのを言うの? 言いたいことがよくわかんないのが純文ってこと? …ま、カテゴライズなんてどうでもいいや。
ひさびさの舞城節は、相変わらずその圧倒的な文章力に酩酊状態。世界はグラグラ。こんな文章、この人じゃないと書けないっつの。

平仮名だと、どうしても嫌になってくるのが「み」で、そもそもこの字は一体何なんだ。何度も書いているともう文字にも見えなくなってくる。嫌がらせのために紛れ込ませた悪意の記号となってくる。(中略)片仮名でもやはり「ミ」が厄介で、このチョンチョンチョンと同じ押さえが三つ並びながらもそれらが同じ顔をしながら性格が違うのは手におえない。同じように見えてちゃんと違うのだ。一番上はギチリと、二番目はニチリと、三番目はシギチリと音が立つようでないと駄目なのだ。

こんな感じでぐいぐい引っ張ってくれる文章の力により、一気に読んでしまったけれど、本当にまあ舞城氏の発想力は私の手には負えません。それでも読んでしまうのは、この文章があるから。何でこんなに魅力的なんだ。決して自分には書けない文章だから? この表現力の見事さには、ただひたすらに舌を巻くのみです。
カニバリズムに抵抗がないわけではないけれど、そこまでのグロテスクさがなかったのが楽に読めた要因なのかもしれません。ま、それでも本作の内容は、大概だと思いますが。
とりあえず両手をあげて「おもしろかった」と言える本でも他人に薦めたくなる本でもないけれど、それでもたまにはこういうのもいいか、なんて思えてしまう。単純に、舞城王太郎の文章に魅せられているからなのでしょう、きっと。