「魔笛」

魔笛 (講談社文庫)

魔笛 (講談社文庫)

非常に世間の評価の高い本作、なるほど面白かったです。以前読んだ「破線のマリス」については、脚本家という氏の本業(?)を鑑みて、なるほど映像世界に生きる人による作品だと感じたのですが、今回はそんな印象はなく。
一部、それを有効に活用した部分も感じてそこにはさすがと思わされたのですが…詳しく書くとネタバレかなということで。
さて、筆力が既に安定している作家ということで安心して読んだ本作だったのですが、こういう「社会派」とおそらく言われるだろう作品は、個人的には好みです。非常に密度の濃い作品で、一気に読んでしまいました。
実は、「えーーこんなことしてていいのー?」なんて思う部分がなくもないのですが(苦笑)、それを差し引いても充分面白い作品だと思います。
キャラクターも魅力的で(主人公の心境は結局最後まで私にはわかりませんでしたが…)、オススメできる作品でございます。
個人的には中心に据えられた鳴尾、籐子、そして真杉(この人が非常に魅力的でした)といった人物に傾倒しつつも、あくまで神の視点を担う語り手である礼子のその冷静さと残酷さに、ある種人間誰しもの内側に存在する矛盾を見せ付けられたようで、ぞくりとするものがありました。
日本における「宗教団体」についてのことや、社会から攻撃の対象となった教団の信者たちは果たして「被害者」なのかといったあたりについてなども、非常に興味深かったです。