「セリヌンティウスの舟」

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

構えずに読めるので、重宝している石持作品。
しかも常に意欲的、挑戦的な作風。非常にイイです。

本作のきっかけとなる謎は、とてもとても小さなもの。
信頼しあった6人の仲間。その全員が集まった打ち上げの夜、皆が寝静まった中で仲間の1人が青酸カリを飲んで自ら命を絶った。机に伏した彼女の手元に転がる青酸カリの小瓶。その蓋はしっかり閉められていた。それはなぜか? ―始まりはこの一点。
即死に至ったかもしれない彼女自身が蓋を閉めたのか? 万一の場合、彼女は仲間が巻き添えになる可能性を考えなかったのか? あるいは…蓋を閉めた協力者が仲間にいたのか?

この小さい謎を最後まで引っ張り、見事にこれだけの作品を為していることに、それだけで単純に感心してしまったり。重箱の隅をつつくような細かいテーマ、私はこういうのキライじゃないです。非常に地味だとは思いますが、それでも着眼点が非常におもしろいなあ…と思います。
ただまあ、納得行かない部分もあるんですよねえ。ある種この人らしいというのか、「弱い」部分がいくつか感じられたり。
仲間の絆も…なんつーか、いえいえ、いいんですけれども。「青春」だなあという感じで。まあでも、主人公なんて思いっきり同年代なんですよねえ。わかんなくもないんですよ、わかんなくも。だけど…んー。
そして、ラストシーンはやはり石持氏らしい、切ない感じ。でもこういう部分も、やっぱりキライじゃなかったりします。