「葉桜の季節に君を想うということ」

本当にまあ、いろんな意味で「すごい」作品。もちろん、大絶賛。

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

2003年のミステリー賞はこの作品が占めてくださったようで。もともと非常に評判がよかったので、そのうち読もうと思っていたところにこのミス受賞等が立て続いたので、よい機会ということで購入して読んでみました。
騙されました。ええ、そりゃもう(笑)。素直にそう言えます。いえ、最後には「なんだよ、ムカつくなあ(笑)」っていう感じも残りますが。
本当にうまい作者だなあ…としみじみ感じさせてくれる作品です。なんというか、直球の本格(いえ、ある意味変化球?)でありながら、社会派のような印象を与えられるのは、やはりこのテーマだからなのでしょうか。
真相が明らかになり始めるとき、非常に困惑を覚えたのは私だけではないはずだと思います。しかし、反論の余地のない展開、そして本編後に「補遺」としてきちんとフォローがしてあるあたりも心憎い感じ。
納得のこのミス1位の作品でした。いろんな意味で満足できました。
この手のミステリーでありながら、本筋とは違ったところのミステリーもきちんと「本格」していて、ものすごく面白いのです。本当に気の抜けない作品でした。
でも実は同じ作者なら、ストーリー的には「世界の終わり、あるいは始まり」の方が好きなんですけどね(笑)。でも世間一般に向けては本作の方がオススメです。

どこの感想を見ても、「語りたいけど詳しく語れないからどうしても意味不明な感想になってしまう」とあるのだが、まさにその通り。ネタバレせずに語ろうとしたら、肝心なことが何一つ語れなくなってしまう。それだけプロットや伏線が全体に渡って細緻に張り巡らされているからなのだけど、改めて読み返してみるとホントに細やかで凄い。伏線が細緻に渡っており、またメイントリックが非常に判りやすいものであるため、読後すぐは非常に爽快だった。その5秒後に本を投げたくなるが(この辺は読めば判る。投げなくてもちょっとムカつく(笑))。
話はいわゆる社会派にあたるんじゃないだろうか。文体が軽いのと作者が本格を書く人ということで、社会派だとは思わずに読み進めてしまうのだが、読後暫くしてから感じたものは社会派そのものだった、良い意味で。でも、メインに据えられているトリックはまさに本格のそれなので、読了直後の爽快感と酩酊感は本格のそれ。そういう意味では二度おいしい。
最後まで一気に読んでしまうノリの良さと、あまりに鮮やかなメイントリック、それと裏で語られているもう一つの事件が良い感じにブレンドされていてホントに面白い。これは人に奨めたくなる。ていうか、奨めちゃう。読んで。
しかも(以下、反転)このメインに据えられているトリックは実は事件の解決には全く影響していない。つまり、メイントリックは読者を騙すためだけに存在している。だからある意味、ミステリーのためのミステリーなわけで、こういうのに対して物凄く色々言いたい作家とか評論家の人も多いのではと思うがどうだろう。(ここまで)
<補足> 
この作品は巻末に作者へのインタビューと解説が掲載されているが、だからといって本書を後ろから開けようとしないように。読書前に志。に口酸っぱく言われたが、俺も同じ事を言っておく。この素晴らしい爽快感を味わいたかったら、前から読め。(姫)